
逆に、
「自分でやってみろ」
あるいは
「できるとしても、高いよ」
と、言いたくなった経験がある。
二十代後半の頃の事だ。

あるフォトライブラリーから
写真撮影の依頼が入った。
注文は、波の写真。
岩に当たって砕ける波をアップで。
ただしバックは、真っ青な空。
波の写真なら、私は十代の頃から
よく撮っていた(FACEBOOK の
カバー写真も波だ)。
掲出の二枚の写真も
十代の時に撮ったもの。
場数を踏んでいるから、
青空バックは困難だろう、と思った。
思いながらも、何度か撮影に出掛けた。
そのポジフィルムを送ると、
ライブラリーの代表者S氏は
「良い絵ではあるが、バックが
青空でないから、ボツ」
と言う。
困難な注文をしたという自覚が
ないようだったので、
岩に当たって砕ける波には近づけませんから
かなり長いレンズで撮る事になります。
すると画角が狭いので、
空は水平線に近い所しか写りません。
水平線に近い所の空は、色が淡い上に
雲が見える事が多いのです。
と、説明した。
S氏の望むような写真が
撮れる気象条件が整う事は、
年に何度も無い。
そこで、条件を緩和できないか?
と言ってみたところ、S氏は怒り出した。
「それはアマチュアの考えだ!
プロなら何としても撮れ!」。
さて、波の写真の前に
ミカンの写真を頼まれて撮ったのだが、
S氏は、その時と同じギャラで
私に波の写真を撮らせようとしたのだ。
安いギャラだから、
条件を 100% 満たさなくても良かろう
と、私は思っていたのだが、
そうではないらしい。
しかし、条件を 100% 満たそうとすれば、
どれほど時間が掛かるか分からないし、
どれほど機材を傷めるかも分からない。
身の危険もあるだろう。
ミカンと同じギャラでは引き受けられない。
S氏は、そういう事は考えないらしく、
「プロなら……」と言う。
はい、プロなら、撮影は業務。
利益が出る見込みの無い写真は、
撮りませんよ。
こないださぁ、アジは百円だったじゃん。リュウグウノツカイも百円で売ってよ。同じ魚なんだからさぁ。
って言うのと同じだと思うんだよなぁ、S氏の考えは。